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大森 彌(東京大学名誉教授)

2040年構想」と特別区

東京大学名誉教授
大森 彌

大森彌

特別区長会調査研究機構は、特別区長会における諸課題の検討に資するとともに、特別区の発信力を高めることを期して、積極果敢に調査研究事業に取り組むこととなった。特別区職員・大学等の研究者・機構事務局が課題に応じたベストミックスの研究チームを組んで、特別区の将来を切り拓く成果をあげていきたいものである。

新たな調査研究機構の発足と期を一にして、総務省からは、「自治体戦略2040構想」が示され、これを基に第32次地方制度調査会が始動している。これは特別区にとっても軽視できない動きである。そこに、当面の重要な検討課題の一つを見出せそうである。

日本の人口は、2008年の約1億2千808万人をピークに減少期に入った。団塊ジュニア世代が65歳以上となり高齢者が約4000万人になる2040年頃に、日本は、若年労働力の絶対量が不足し、内政上の危機を迎えるとされている。そこで、2040年という時点に目標を設定して、そこから振り返って現在なすべきことを考えるバックキャスティング(後方に視線を投げる)という手法がとられている。これと対比される手法はフォアキャスティング(前方に視線を投げる)で、過去のデータや実績に基づいて現状で実現可能と考えられることを行って、未来の目標に近づいていくやり方である。この2つの手法が、特別区における2040年頃の問題群に対処する上で、どのような有効性をもちうるのか検討する必要があろう。

人口拡大期には、人口増加や都市の拡大に伴い増加する行政課題を、個々の自治体が現場の知恵と多様性によって生み出した新たな政策によってそれぞれ乗り越えてきた。しかし、人口縮減期には、個々の市町村がすべての施策分野を手掛けるというフルセット主義を脱却し、標準化された共通基盤を用いた、効率的なサービス提供体制を構築しなければ、住民のくらしは守れないという。そのためには自治体行政(OS)の書き換えが必要であるとし、1.スマート自治体への転換、2.公共私によるくらしの維持、3.圏域マネジメントと二層制の柔軟化、4.東京圏のプラットフォームが提案されている。

急速な高齢化が進む東京圏では、市町村合併や広域連携の取組みが進展していないことにより、医療・介護サービスの供給不足が深刻化すると予測され、各市町村はフルセット主義から脱却して、東京圏全体のサービス供給体制を構築する必要があるとされている。

23の特別区が存する区域は「人口が高度に集中する大都市地域」とされ、都区で一種の圏域行政を行っている。この圏域を東京圏にまで広げて考え、そこで連携を進めるとは何をどうすることになるのかを検討する必要があろう。

さらに、自治体が住民サービスを持続的、安定的に提供していくためには、AI(人工知能)やロボティクスによって処理することができる事務作業は全てAI・ロボティクスに任せ、職員は職員でなければできない業務に特化する必要があること、新たな公共私の協力関係を構築することなどにより、従来の半分の職員でも自治体として本来担うべき機能が発揮でき、量的にも質的にも困難さを増す課題を突破できるような仕組みを構築する必要があることも提案されている。特別区の職員にとっても見過ごすことのできない問題提起である。これらについても、大都市地域における基礎的自治体としての特別区に即して注意深く検討する必要があろう。