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広井 良典(京都大学教授)
"地域への着陸"の時代
京都大学教授
広井 良典
特別区長会調査研究機構がこのたび発足し、様々な政策課題に関する調査研究を進めていくことになったことはきわめてタイムリーなことであり、そのスタートをお慶び申し上げたいと思います。
こうした組織が重要になってくる背景の一つとして、「ローカライゼーション」という時代の潮流があると思います。これまでのように、人口や経済のすべてが"拡大・成長"を続ける時代においては、ナショナルな中央集権化、さらにはグローバル化という方向が一様に進んできました。しかし現在という時代は、人口減少という、これまでとは逆のベクトルが浮上し、また経済も高度成長時代とは大きく異なる成熟化の時代を迎えています。さらに加えて、地域との関わりの強い高齢世代が着実に増え、特に東京を始めとする首都圏においてはこの傾向が急速かつ顕著であることはすでに様々な形で論じられています。
したがって、高度成長期を中心とする拡大・成長時代がいわば地域からの"離陸"の時代だったとすれば、私たちが今迎えつつある人口減少ないし成熟の時代は文字通り"地域への着陸"の時代と言え、それがまさに「ローカライゼーション」と重なります。実際、近年、学生などと接していて感じることですが、若い世代もまた地域や地元、ローカルといった点への関心を強めているという傾向が見られます。
特別区長会調査研究機構がこうした時代状況の中で創設されたのは、先述のように文字通りタイムリーなものと言えます。私自身は、これまでささやかながら荒川区における幸福度に関する政策や、それに伴う「幸せリーグ」の展開等に関わりをもたせていただいてきましたが、本機構を通じて特別区の調査研究機能が一層高まっていくことは、全国の自治体にとっても指針になるものと思います。
ちなみに、私自身は平成31年度における、いわゆる国連のSDGs(持続可能な発展目標)と特別区に関するテーマについての調査研究に関与させていただく予定ですが、以上のようなローカライゼーションという視点を考えていくにあたり、もう一つ重要な点があると思います。それは、それぞれのローカルな自治体は孤立して存在しているのではなく、相互依存の関係にあるという点です。特に東京のような大都市圏は、食糧やエネルギー、また労働人口を全国の地方都市や農村部から得ており、したがって大都市圏と地方都市、農村地域との間の"持続可能な相互依存"という視点をもつことが大切で、それがSDGsの関連でも浮かび上がるものと思います。
いずれにしても、"地域への着陸"そして成熟の時代における特別区長会調査研究機構の発展に大いに期待します。