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神野 直彦(東京大学名誉教授)
特別区長会調査研究機構の船出に寄せて
東京大学名誉教授
神野 直彦
人間の歴史が混乱し、方向性を喪失したと思われる現在の状況のもとで、特別区長会が「特別区長会調査研究機構」を設立した意義は、強調しても強調しすぎることがないほどに大きい。より人間的な新しい社会を求めて、人間の歴史に方向性を取り戻そうとする偉大な試みの最初の一歩を踏み出したということができる。
この「特別区長会調査研究機構」は世界都市東京の特別区の協力のもとに設立された研究機関である。現在の人間の歴史の混乱は、グローバリゼーションとローカリゼーションとのせめぎ合いのうちに生じている。つまり、グローバリゼーションの要求する生活様式の画一性と、地域社会で営まれる生活様式の多様性を、いかに和解させるかで、人間の歴史は苦悩しているといってよい。
特別区は世界都市東京の基礎自治体である。そのためグローバリゼーションとローカリゼーションとの矛盾が、地域社会で解決しなければならない課題として生じている。「特別区長会調査研究機構」はこうした特別区で生じている地域社会の課題を、特別区が協力して調査研究をするために設立されている。それは「特別区長会調査研究機構」の調査研究が、現在の人間の歴史の混乱の「核心」を調査研究することを使命としていることをも意味している。
そのため、「特別区長会調査研究機構」の成果は、特別区の自治体運営に生かされるだけではなく、混迷する人間の歴史から脱出する導き星ともなる。地域研究を使命とする研究機関は多く存在するとはいえ、人類にとっての歴史的課題をも担っている研究機関は、「特別区長会調査研究機構」をおいて他にあるまい。
「特別区長会調査研究機構」の設立意義については、抱えている使命の歴史的意義の重要性とともに、その使命を果すために協力原理を貫いていることを強調しておく必要がある。ここでの協力原理とは、協力する主体のそれぞれが、その良いところをますます発展させながら、共同作業によって共有する課題の解決に取り組むことを意味している。
そもそも「特別区長会調査研究機構」は、特別区の協力のもとに設立されている。この協力も当然ながら、それぞれの特別区がその個性をますます輝かせつつ、共同の困難に立ち向かう協力である。
もちろん、「特別区長会調査研究機構」は特別区という地方自治体と、大学などの研究機関との協力のもとに運営されていく。この協力も地方自治体は地方自治体の論理をますます純化させ、大学などの研究機関もその論理を純化させていく協力である。地方自治体は研究の論理を学び、それを現実の問題解決に生かそうとするし、研究者は現実に生じている問題とその対応を学びながら、自己の学問を深化させようとするのである。
このように「特別区長会調査研究機構」は様々なレベルでの協力を実現させながら、地域研究に取り組んでいくことになる。しかも、こうした地域研究は新しい人間の社会のヴィジョンを創り出す使命をも担っていることを忘れてはならないのである。