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市川 宏雄(明治大学名誉教授)

内憂外患の東京

明治大学名誉教授
市川 宏雄

市川宏雄

東京都の地方法人課税は法人住民税の交付税原資化の約5,000億円に加えて、新たな税制改正によってさらに約4,200億円が地方に配分されることになった。東京都の財源がこれまでに増して大きく減額されることになり、特別区への影響は深刻なものとなっている。

各地域で社会資本投資を同じ1単位行った場合に、国内総生産をどれだけ押し上げるかを生産関数分析で推計すると、東京における押し上げ効果(社会資本の限界生産性)は他地域に比較して2倍以上高い数値となる。すなわち、東京からお金を奪えば、そこで投資されることによって生みだされるはずの富が期待できなくなるのである。確かに、財政的に苦しい地方を助けるために富の配分をすることの論拠の妥当性はあるが、それによって相対的に富が失われることになる大きな損失を考えねばならない。大都市の都市問題の解決に投資することは、国内総生産をより効果的に押し上げることになるので、全国にその波及効果があるのである。本格的な少子高齢による人口減少社会の到来、東京都が保有する社会資本ストックの急速な老朽化、首都直下地震や局地的な集中豪雨、これらの諸課題への対策に、ますます財政需要が増加している。その対策を怠れば何が起こるのか。

国外に目を向ければ、グローバル化の進展により、先進諸国のみならず、近年の目覚ましい経済成長を背景にして、アジア新興国が急速に台頭している。大都市は都市問題の解決だけでなく、都市の力そのものを上げないと都市間競争についていけなくなる。私が主宰する世界の都市ランキング(GPCI)で、主要都市の過去のスコアの推移を見ると、ニューヨークに次いで2位だったロンドンが2012年のオリンピック開催後にニューヨークを抜いた。東京は2013年にオリンピック開催が決まってから上がり始め、2016年にパリを抜いて3位になり、2017年にはニューヨークにかなり近づいた。ところが、2018年のデータではニューヨークは経済状況の改善とシェアオフィスの増加や企業インキュベーションへの積極的な対応で急激にスコアを上げ、東京とのスコア差はひろがりつつある。東京の偏差値50未満の弱点となる指標グループは、「市場の魅力」「居住コスト」「大気質」「国際交通ネットワーク」など、それぞれ規制緩和や積極的な施策が必要ものばかりである。

さらにアジアの主要都市の成長は著しい。東京の経済成長率は2016年にマイナス1.1%となる一方で、北京や上海は約7%、シンガポールや香港は約2%となった。ヨーロッパにおけるロンドン、北米におけるニューヨークの地位は、歴然と他を引き離すだけの都市力を有しているのに対し、アジアにおける東京の地位は、シンガポールやソウル、香港などの追随を許しており、絶対的な地位の確保には至っていない。東京の国際競争力の向上なくして、世界の激しい都市間競争に打ち勝つことは不可能であり、首都である東京の相対的な国際競争力の後退は日本経済全体の停滞にも繋がり、いずれ東京、そして日本が世界に埋没してしまう恐れがあるのである。